定番絵本どう選ぶ?

昔読んでもらったあの話を子どもに・・と探してはみたものの、同じお話なのに絵や文が違う絵本が複数あって迷ってしまった。そんな経験はありませんか?
今回のWEBでブックトークは、前回のテーマ(クセになるかも!?シュールな絵本)からガラリと変わって、読み聞かせの基本である「定番絵本」がテーマ。与野図書館からゲストをお迎えし、定番絵本を選ぶ上でのポイントを中心にお話をうかがいました。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立与野図書館
児童・地域係 Kさん

司書歴25年、全国に支部を持つ児童図書館研究会の運営委員兼埼玉支部代表を務め、県内の児童サービス研修でも講師として活躍中。「じてんしゃにのるひとまねこざる」をこよなく愛する、児童図書の大ベテラン。

さいたま市立与野図書館
児童・地域係 Y山さん

図書館勤務歴3年。フットワークが軽く機転が効くと評判の児童・地域係のマスコット的存在。平成生まれとは思えない雑学力を誇り、年齢を問わず誰とでも話せるコミュニケーション能力の高さが魅力。動物が登場する絵本が大好き。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
おおきなかぶ 三びきのやぎのがらがらどん ベーコンわすれちゃだめよ!
「おおきなかぶ」
作:A・トルストイ
絵:佐藤 忠良
訳:内田 莉莎子
出版社:福音館書店(1966年)
価格:900円(税別)
「三びきのやぎのがらがらどん」
訳:瀬田 貞二
絵:マーシャ・ブラウン
出版社:福音館書店(1965年)
価格:1,100円(税別)
「ベーコンわすれちゃだめよ!」
作・絵:パット・八ッチンス
訳:渡辺 茂男
出版社:偕成社(1977年)
価格:1,400円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

以前「本をはさんで親子で話そう」のこちらの回に登場した「たべられたやまんば」のように、昔話絵本は再話も絵も様々なものがあって、どれを選んだらよいか迷ってしまうというケースがありますよね。基本は同じお話なんだから・・・と、なんとなく表紙の絵の好みで選んでしまったりするのですが、何か選び方のポイントってあるんでしょうか?
確かに、ある程度の知識がないと選ぶのは大変かも知れませんね。中にはお話の内容を変えてしまっているような酷い本もありますし・・・。個性的な画家やイラストレーターを起用した絵本は話題性があり確かに魅力的ですが、必ずしも読み聞かせに適しているとは限らないので、選ぶときには注意が必要なんです。
初版が古い作品は、やはり絵柄もどことなく古く地味ですし、今どきのカラフルな絵本に、つい目がいってしまうのもわかります。でも、長く愛され続けている絵本を紐解いていくと、「ああ、なるほど!」と思わせる要素が本当に多いんですよ。だから、迷ったら古い本を選ぶのも、選ぶときのひとつのコツかも知れないですね。
わかりやすい作品ということで、ロシア民話をベースにした「おおきなかぶ」を例に説明しましょうか。このお話も何種類かの絵本がありますが、図書館としておすすめするのは、やはり内田莉莎子さんが再話し、彫刻家の佐藤忠良さんが絵を担当した福音館書店から出版されているこの絵本ですね。
本を見ると初版1966年とあるので、50年以上にもわたって愛されているベストセラー絵本なんですね。そういえば私も昔、どこかでこの絵本を読んだ気がします。うーん、でも、よくよく思い出してみると、ストーリーや文中のフレーズははっきり覚えているのに、絵については「こんな感じの絵」みたいなわりとぼんやりとした印象なんですよね。
教科書にも載っている作品ですし、ご覧になったのは違う人の絵だったのかも知れませんね。でも、ストーリーやフレーズは心に残っていたのでしょ? それは昔話の文体による力だと思います。 佐藤忠良さんの絵は、装飾性を省いた彫刻家らしい素朴なもので、お話のストーリーそのものを際立たせる、非常に優れた絵だと思います。
複数ある「おおきなかぶ」の絵本の中には、登場人物を個性的に描いたり、人気キャラクターに置き換えたものもありますが、それだと登場人物の絵ばかりに目や心が奪われやすく、逆にお話そのものの印象がぼんやりしてしまうというマイナス面もあるんです。
それと、読み聞かせ絵本としてこの絵本が優れているのは、かぶの位置が定点で描かれている点です。ページをめくってもアングルが固定していて、しかも左から右へ常に進んでいくので、子どもの視点でみた場合、新しく加わった人物がすぐにわかりますし、不必要なズームもないので、かぶと人物の大きさの関係もわかりやすいんですよ。
考えてみれば、引き抜く瞬間の勢いを表現しようと思えば、アングルを変えて“かぶ”をいきなり巨大化、みたいな図だってアリなんですよね。あざとい演出や不必要なデフォルメを一切使わないこの「 おおきなかぶ 」の絵は、一見地味に見えて実は子どもをお話の世界に引き込ませるために計算しつくされたものだったんですね!奥が深い!

昔話って、「ある所におじいさんとおばあさんが・・・」っていう独特のリズムで始まるでしょう? あれって、子どもたちが安心してお話の世界を楽しめるように工夫された昔話特有の構造なんです。具体的な説明を敢えてしないと、現実感が薄くなり、想像の余地も狭められて、本気で怖い思いをしなくても済むことになるんですね。
昔話には、そういう仕組みがあったんですね。
そうなんですよ! だから昔話を絵本にするなら、昔話らしいシンプルでリズミカルな文章にすべきで、無駄な形容詞とか余分な説明を加える必要はないんです。それは絵に関しても同様ですね。 この絵本は、そうした手法を熟知した画家と訳者による本当に素晴らしい作品で、昔話絵本のお手本ともいえる存在です。
さきほどの「おおきなかぶ」ほど多くはありませんが、こちらのお話も絵や文が異なる絵本が何冊かでているので、比較してみると面白いと思いますよ。
文については、やはり瀬田貞二さんが訳した「三びきのやぎのがらがらどん」に勝る作品はないですね。 瀬田さんは、海外の優れた児童文学を日本に紹介したパイオニアといえる人です。言葉がリズミカルで、声に出した時の日本語としての美しさがあり、子どもの心や耳をゆさぶる力強さがあります。
確かにこの「がらがらどん」というタイトルも一度聞いただけで耳に残りますよね。あと絵の構図が「定点」で「左から右に進む」という流れは、先ほど「おおきなかぶ」でうかがった良本選びのポイントと共通していますね。
お!いい所に気づきましたね。 このお話には、大中小の3匹の大きさの違うヤギが登場します。橋を定点(真横)から描き、やぎが橋を渡る度、どれだけ橋がたるむのか、一目でわかるようにしているのがこの絵本の大きな特徴です。 文でも、「かたこと」「がたごと」「がたんごとん」といった、リズミカルな擬音の効果が加えられています。
視覚プラス聴覚で、状況がどう変化していくのかを感じられるようになっているから、お話の世界にどんどん引き込まれていくことになって、子どもたちもあんなに集中して楽しむことができるんですね!
ここに読み比べ用に「三びきのやぎのがらがらどん」と同じ民話をベースにした絵本をご用意いただいたのですが、こちらの絵の方が現代風でお花も描かれていてキレイなのに、こうして改めて読んでみると、色数や構図、描き込みが圧倒的にシンプルな「三びきのやぎのがらがらどん」の方が断然迫力を感じますね。
そうなんです。純粋にお話を楽しむためには、絵も文に詳細な描写や形容詞が必要ない、というのはそういうことです。特に物語を楽しむ基礎となる定番の絵本選びは、表紙の華やかさに惑わされず、絵や文、外国の作品なら訳文をしっかり吟味して選んで欲しいですね。
ついでに絵本選びのコツを伝授しておくと、絵なら「物語る絵」と言って、聞き手の想像力を喚起するような絵が、優れた絵本の絵です。文章は、声に出して読んでみて心地 が良く、パラパラとめくって、絵を見ているだけでお話の内容がわかるのが、良い絵本の文なんです。この2つをチェックポイントにすると良いと思いますよ!

では最後に私の定番オススメ絵本「ベーコン わすれちゃだめよ!」を。民話をベースにした先の2冊とは違い、こちらはオリジナルのお話になります。お母さんにお使いを頼まれた男の子が、忘れないようにぶつぶつ唱えて進んでいくうちに、買い物リストがだんだんおかしなことに・・・というお話で、おはなし会でも人気の定番絵本です。
あ、コレ、民話の「だんごどっこいしょ」や落語の「平林(たいらばやし)」なんかと同じパターンだ!おつかいの目的が途中でおかしなことになっていく、というお話は洋の東西や時代に関係なく楽しめるものなんですね。
初めておはなし会で読んだとき「これを借りて帰りたい」という方が多くいらっしゃって、紹介して良かった!と感じた思い入れのある絵本でもあります。実はこの本、もともと英語の「韻遊び」の絵本なので、日本語だと単語の相似関係がなくなり突飛な感じがするものの、それをカバーして余りある訳文が話の魅力を引き出しています。
たまご(egg)とだいこん足(leg)、ケーキ(cake)とケープ(cape)という英語の「韻遊び」です。でもそこがわからなくてもこれだけ楽しめるのは、やはり訳文の力にほかなりません。瀬田さん同様、訳者の渡辺茂男さんもご自身が児童文学の創作をされているので、子どもの心をつかむ音や表現に長けているのだと思います。
今回は昔ながらの定番絵本ということで、一見地味な作品ばかりのように感じますが、Y山さんがおっしゃられた通り、長く愛され続けている絵本を紐解いていくと、「ああ、なるほど!」と思わせる要素が本当に多いですね。
表紙の絵の好みで絵本を選んでいた自分を反省しなくては(笑)
いえいえ(笑)。お母さんの好みや話題性で選んだ絵本が全てダメというわけではありません。ただ将来、しっかり本を楽しむためには、やはり物語にしっかり入り込むことができる下地が必要で、その大切な役割を担うのが定番絵本です。図書館ではそうした絵本をたくさん紹介していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
今回セレクトしていただいた本
おおきなかぶ 三びきのやぎのがらがらどん ベーコンわすれちゃだめよ!
「おおきなかぶ」
作:A・トルストイ
絵:佐藤 忠良
訳:内田 莉莎子
出版社:福音館書店(1966年)
価格:900円(税別)
「三びきのやぎのがらがらどん」
訳:瀬田 貞二
絵:マーシャ・ブラウン
出版社:福音館書店(1965年)
価格:1,100円(税別)
「ベーコンわすれちゃだめよ!」
作・絵:パット・八ッチンス
訳:渡辺 茂男
出版社:偕成社(1977年)
価格:1,400円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます


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