たくましい植物の世界<前編>

今回は、地球上に約27万種も存在するといわれる「植物」がテーマ。生命の輝く季節「夏」を目前に、北図書館のM山さんとM口さんをゲストに迎え、植物のたくましい生命力についてのブックトークを展開。身近な植物から、標高4000mのヒマラヤ山脈に生きる植物まで、選りすぐりの絵本を【前編】【後編】の2回に分けてお届けします。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立北図書館
児童・地域係 M山さん

司書歴13年。好きな絵本は、暑さ、寒さ、においなど五感が刺激される絵本。海や山など自然の中で過ごすのが大好きで、数年前からは念願の畑での野菜づくりにも挑戦。収穫した野菜のおいしい調理法を日々研究中。

さいたま市立北図書館
児童・地域係 M口さん

司書歴22年。ビリヤードが趣味で、好きな絵本のジャンルはどうぶつの絵本。手や指の関節が柔らかく、おはなし会で手あそびを行うときに見せる手の形の美しさには定評があり、思わず見とれる人も多いのだそう。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
やさいの花 雑草のくらし―あき地の五年間 たんぽぽ
「やさいの花」
作:嶋田 泰子
写真:埴 沙萠
出版社:ポプラ社(2016年)
価格:1,500円(税別)
「雑草のくらし―あき地の五年間」
作・絵:甲斐 信枝
出版社:福音館書店(1985年)
価格:2,300円(税別)
「たんぽぽ」
作・絵:甲斐 信枝
出版社:金の星社(1983年)
価格:1,300円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

今回のテーマは、「たくましい植物の世界」。今日は普段あまり知ることのできない植物の姿や、めずらしい植物の絵本をご紹介いただけると聞いて、期待を込めて某番組風なタイトルをつけてみました。“ワタシの知らない”植物の世界との出会いに、ちょっとワクワクしております。
はい。よろしくお願いします。今回は科学絵本の中から、とっておきの植物の絵本をご用意しました。まずはこちら「やさいの花」です。野菜ってすごく身近で、名前をいえば色や形がすぐ思い浮かぶのに、どんな花を咲かせるかについては、あまり知られていないんですよね。(本を開いて見せながら)例えばこれ、何の花かわかります?
うーん、なんだろう。菜の花に形状が似ていますが・・・。 いやー、それにしても一面見事なお花畑。「やさいの花」の本だと知らずに見たら、とても野菜畑だとは思えませんね。
でしょう?これ、ダイコンの花なんです。実は、私は以前から野菜づくりが好きで、数年前から畑仕事をやっているのですが、ある年とても忙しくて、ダイコン畑に手がかけられず放置状態が続いたことがあって。どうなっているかと恐る恐る見に行くと、まさにこの写真そのもの、一面のお花畑。まさかの光景に、すごくびっくりしました。
野菜とはいえ、ダイコンだって植物。種を残すために花を咲かせる。そんな植物なら当たり前のことを、野菜だとつい忘れてしまう。畑のあぜ道を通って学校に通う、そんな光景も最近はあまり見なくなり、春夏秋冬の畑の様子を知る機会が少なくなったせいでしょうか。
品種改良なんかも理由のひとつでしょうね。野菜っていうのは人間の都合に合わせて改良を重ね今の形になったわけですが、ジャガイモなんかは早くたくさん良いものが収穫できるように、“種”ではなく“種芋”で育てるように品種改良されていて“実”から“種”をとる必要がないため、あまり実がならないのです。
“野菜=実”と思いがちですが、ジャガイモの食用部分は“茎”なんですよね。理科で習った時、すごく驚きました。確かに、咲いてもすぐに摘まれてしまうのでは、目にする機会がないはずですよね。この本にはいろいろな野菜の花の写真が出ていますが、こんんな風に話すきっかけがないと、一生見ないで終わってしまったかもしれません。
ここに出ているオクラの花も、葵の仲間でとてもきれいなのですが、すぐにしぼんでしまうため見られるチャンスが少ないんです。観賞用に改良された花と違い、個性が求められていない野菜の花は、興味を持たないとなかなか気づかないもの。花に限らず、自分で野菜を作るようになって「え、そうだったの!?」と驚くことは多いです。
実は私も、この本を読んで初めてゴボウが菊の仲間だと知りました。もう何十年と食べ続けてきた野菜でさえ、まだまだ知らないことがこんなにある。身近な植物であればあるほど、生態どころか名前すら知らなかったりしますよね。“雑草”なんてまさにその典型。ということで、次にご紹介するのはこちら、「雑草のくらし」です。

植物や自然を描く絵本作家として有名な甲斐信枝さんの代表作で、「人が手を加えないと、雑草の世界はどう変化するのか」を描いた絵本です。“あき地の五年間”と副題にあるように、甲斐さんご自身が京都の比叡山のふもとの畑あとの一角に金網を張り、実際に5年間通って観察し続けた実際の変化を見ることができます。
はじめは地べたにわずかに雑草が生えていただけの土地が、春、夏、秋、冬を繰り返すうち、誰が種をまいたわけでもないのに新しい草が生え、強いものが勝ち残り、ジャングルのようになっていく様はまさに圧巻です。
わっ、これはすごい!この一角だけ別世界というか、違う時間が流れているみたい! しかし絵本というより、まるでドキュメンタリー映像を見ているよう。迫力があり、圧倒されますね。これっていつ頃の作品なんですか?
1985年、今からもう30年前に出版された作品です。絵本にっぽん賞も受賞していて、今もなお高く評価されている作品です。草むらに生息する虫や生物、空の色、雲の形、葉や枝の一つひとつが本当に丁寧に書き込まれていて、見るたびに新しい発見があります。よく見ると、小さい文字で植物の名前もちゃんと書かれているんですよ。
いい本というのは褪せないですよね。甲斐さんはご自身のエッセイで「植物の時間に合わせると、植物は本性を現してくれる」と語っているのですが、植物を時間をかけてじっくり観察しているそのまなざし、植物への敬意や愛情が、絵本のあちこちから伝わってくる。だからこうして30年も経っても、人の心を動かすのでしょうね。

この「たんぽぽ」という絵本を読むと、甲斐さんが本当に植物を愛情もって描いているのがよくわかります。ご自身が“たんぽぽ”の気持ちや目線に同化して描いているので、絵と文の両方から“たんぽぽ”の生きようとする力がものすごく伝わってきます。
「たんぽぽは背をのばす」だけで通じる文も、あえて「たんぽぽは安心して背をのばす」と表現する。“たんぽぽ”を単なる植物でなく、命として見ているんだというのが、この一文からも伝わってきますね。まるでテレビのドキュメンタリーのナレーションのような感じ、といえば伝わるでしょうか。
だから読んでいるうちに、自分も“たんぽぽ”の視点になりドキドキしてくるんですよね。この本の最大の見せ場に、綿毛を飛ばす場面に開きのしかけがあるんですが、“たんぽぽ”の息づかいが感じられて、ページを開くのに思わず息を飲んだほど。開いた瞬間は思わず、「わあっ!」と声が出てしまいました。
あれはもう、素晴らしいの一言ですね。開きの効果と相まって、“たんぽぽ”の綿毛が飛んでいく様子をまるで目の前で見ているかのよう。開いた瞬間、一瞬の風が吹いて一斉にぶわっと飛び立っていく様子が目の前に広がって、すごく迫力があります。
魂を感じますよね。絵が上手いだけじゃない。雨に打たれながら太陽を待つ姿とか、 生き物としての“たんぽぽ”が描かれていて、ドラマを感じるというか。ドキュメンタリーというと、絵本より映像の方がリアルなはずなのに、映像とはまた違うリアリティがありますね。
まさに“たんぽぽ”の一生がこの本に閉じ込められていますよね。絵本を開いた瞬間に、風や空気、温度、そういうものを含めて、わっと時間が動きだすような不思議な力を感じるのは、作者の植物への尊敬や愛情がこもっているからこそ。感性の柔らかな豊かな子ども時代にこういう本と出会えるのは、とても素晴らしいことだと思います。
名もない雑草たちのたくましく生きる姿、野菜の植物としての本来の姿など、身近な植物の意外な一面に触れられる絵本を取り上げた、今回のブックトーク、いかがでしたでしょうか?「たくましい植物の世界」後編となる次回は、砂漠や高山など過酷な環境で生きる植物の絵本を取り上げます。お楽しみに!
今回セレクトしていただいた本
やさいの花 雑草のくらし―あき地の五年間 たんぽぽ
「やさいの花」
作:嶋田 泰子
写真:埴 沙萠
出版社:ポプラ社(2016年)
価格:1,500円(税別)
「雑草のくらし―あき地の五年間」
作・絵:甲斐 信枝
出版社:福音館書店(1985年)
価格:2,300円(税別)
「たんぽぽ」
作・絵:甲斐 信枝
出版社:金の星社(1983年)
価格:1,300円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます