科学のこころを育てる絵本 <生き物編>

夏の訪れまでもう少し。「今年の夏はどこへ行こうか?」なんて話が、そろそろ話題に出はじめたご家庭もあるのでは?夏休みといえば、海に山に、大自然と触れ合い、身近な科学を体験できる絶好のチャンス。
そこで今回は、さいたま市立与野図書館きっての“かがく絵本好き”で知られる児童サービス係のY野さんをゲストに、「科学のこころを育てる絵本」についてのお話をお聞きしました。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立与野図書館
児童サービス係 Y野さん

司書歴10年。さいたま市立与野図書館きっての “かがく絵本”好き。
小さな頃から様々な生き物に興味を持ち、ひるむことなく虫をつかむその姿に、ちびっこ男子から「スゲー」と憧れと尊敬のまなざしを向けられることも多いのだとか。

※役職・所属・プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
162ひきのカマキリたち ぼく、だんごむし  
「162ひきの カマキリたち」
さく:得田之久
出版社:福音館書店(2003年)
価格:838円(税別)
※こちらの作品は、品切れ・重版予定なしのためご購入いただくことはできません。ご了承ください。
「ぼく、だんごむし」
ぶん:得田之久
え:たかはしきよし
出版社:福音館書店(2005年)
価格:900円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

子どもにとって一番身近な自然であり科学といえば、コレ。今回は“生き物”をテーマに選んでいただきました。まず最初はこちら「162ひきのカマキリたち」。うーん、「101匹わんちゃん」と違って、「162匹のカマキリ」は想像するとちょっとコワイんですが(笑)
ところで、「162」というこの中途半端な数字にはどんな意味が?

この数字は、“らんのう”から誕生する「カマキリのこどもたちの数」なんです。最初のページを開くとほら、カマキリの子どもがちゃんと162匹描かれてるでしょう?
いち、に、さん、よん・・・・・わっ!本当だ。これ1つ1つ全部書いているんですよね。スゴイ!「科学」というと、絵本より写真やデータがいっぱい載った図鑑の方が優れているようなイメージがありましたが、この精密さ、写真に負けてないですよ、コレ。

細かいでしょう?作者の得田之久さんは昆虫絵本でとても有名な方で、「いつも昆虫を身近で見ている子どもたちに、“これは本物だ”と納得できる絵を!」という意気込みをもって描かれているそうなんです。実際にカマキリを飼い、孵化するところから時間をかけて1匹1匹、真剣に丁寧に書いた本だからこそ、子どもたちがこの絵本を読んだ後に、カマキリを見て心が動くんだと思います。

なるほど。あ、ページが進むごとに、カマキリの数がだんだん減ってる!
春が終わる頃には、162匹いたカマキリがたった18匹になり・・・で、最後に残るのは、えっ、たった1匹なんですか!

ええ、おはなし会での読み聞かせでも、子どもたちがビックリするんですよ。「162匹も生まれて残るのはたった1匹なの!」って。
青森の保育園で、この本の読み聞かせと並行して実際にカマキリを飼って観察したそうなんですが、最後に残ったのはやはり1匹だったそうです。そこで「この本に書いてあることは本当なんだ!」と子どもたちが心から納得した、という話を聞き、改めて“かがく絵本”の魅力を再認識しました。(ウットリ・・・)

絵本という形ではあるものの、この本に描かれているのは、カマキリが生まれてから成虫になるまでの“本当の出来事”、いわば「ドキュメンタリー」なんですね。ああそうか、“本当の出来事”だからこそ、作者は(カマキリの)絵のリアリティにこだわったんですね。

そうですね。ただ同じドキュメンタリーでも、見たこともない生き物だと、「ふーん、そうなんだ」で終わってしまいがち。でも、普段見ている生き物や疑問に思っている自然現象だと、ものすごく生き生きした表情で反応してくれるんです。「前に見たアレは、こうなっていたのか!」と、「心底納得する」ことで「学び」が「知識」に変わるんでしょうね。

そういえば「本をはさんで親子で話そう」の第3回(言葉と絵に体験を結び付けることで、想像力は育つ)で、“経験と絵本をリンクさせると子どもの反応が生き生きする”というお話があったんですが、やっぱりそうなんですね!ということは、昆虫や植物の絵本は、本物を見たり触れたりできる時期に読む方がいいってことですか?

その方がいいですね。おはなし会でも、“つくし”の本は春先、実際に見られる時期に読みますし。見たばかりの頃に読む、あるいは読んですぐ見る、という風に、絵本と体験が近いほど、子どもにはインパクトがあり「納得」や「感動」も大きいようですよ。

庭先や出先でカマキリを見かけたその日に、この「162ひきのカマキリたち」を読むと効果絶大ってことですね!

見かけてからなるべく早く読む方が良いですね。子どもってすぐ忘れてしまうので(笑)
そういえば、さっきお話した「162ひきのカマキリたち」の読み聞かせと飼育観察を並行したという青森の保育園の子どもたちですが、この体験から外で1匹のカマキリを見たときに、「この子(カマキリ)はいろんな大変なことをくぐりぬけて生き残った最後の1匹なんだね。だから、捕ったらダメだよね」と自分から言ったそうなんですよ。

うわー、いいなぁ、そういうの。でも最近では、なかなかカマキリも見るチャンスも減ってきている気がします。もう少し身近な生き物の本はないですか?

ありますとも!ということで選んだのがこちら「ぼく、だんごむし」。
ところでMさん、だんごむしって昆虫じゃないって知ってました?

おお、だんごむし!子どもたち、好きですよねぇ・・・
って、ええっ!だんごむしって虫じゃないんですか!

ちがうんですよー。足が6本なのが昆虫。だんご虫は14本。何の仲間かは、ぜひ本を読んでいただきたいのでここではナイショです(笑)。ほかにも、だんごむしをよくコンクリートの近くで見かける理由なんかも、わかる絵本なんですよ。

へえ~、こんなに身近な生き物なのに、結構知らないものなんですね。でも考えてみると、大人になると自分の興味のないことって、きっかけがないとなかなか知るチャンスってないですもんね。そういう点では“かがく絵本”は、大人にとっても「へ~、そうなんだ~」という新しい発見があって楽しいですね。
ところで足の数といえば、クモは8本ですけど、あれも昆虫じゃないんですか?

その通り!クモは「節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目」といって、昆虫ではありません。ですから図書館の本の分類でも、クモの本は昆虫の場所には置いてないんですよ。図書館にご来館の際には、ぜひ確かめてみてくださいね。

だんごむしといいクモといい、今日のお話は「えっ!そうなんですか」の連続でした。ぜひまた、親子で楽しめる“かがく絵本”のお話を聞かせてくださいね。楽しみにしています!

今回とりあげたカマキリをペーパークラフトで作ってみませんか?
今回セレクトしていただいた本
162ひきのカマキリたち ぼく、だんごむし  
「162ひきの カマキリたち」
さく:得田之久
出版社:福音館書店(2003年)
価格:838円(税別)
※こちらの作品は、品切れ・重版予定なしのためご購入いただくことはできません。ご了承ください。
「ぼく、だんごむし」
ぶん:得田之久
え:たかはしきよし
出版社:福音館書店(2005年)
価格:900円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます