子どもの日常を描いた絵本

さて今回のゲストは前回のさいたま市立与野図書館から、Y野※さんに変わり同じく児童サービス係のY田さんにバトンタッチ。Y田さんは現在、8歳と4歳の姉妹の子育てまっただ中ということで、ご自身のお子さんへの読み聞かせ体験から「子ども自身が登場人物に自分を重ねてのめりこんだ」という、子どもの日常を描いた絵本について、お話をうかがいました。
※与野図書館のお二人は、どちらもイニシャルが同じため、前回はY野さん、今回はY田さんとしました。

今回のブックトークゲスト

さいたま市立与野図書館
児童サービス係 Y田さん

司書歴14年。8歳と4歳の姉妹を育児中のワーキングマザーでもある。
仕事柄お子さんとのコミュニケーションに読み聞かせを活かすことが多く、親子揃って「食べもの」が登場する絵本が大のお気に入り。

※役職・所属・プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
ジャムつきパンとフランシス いもうとのにゅういん  
「ジャムつきパンとフランシス」
作:ラッセル・ホーバン
絵:リリアン・ホーバン
訳:松岡享子
出版社:好学社(1971年)
価格:1,200円(税別)
「いもうとのにゅういん」
作:筒井頼子
絵:林明子
出版社:福音館書店(1987年)
価格:800円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

まず最初は、こちらの「ジャムつきパンとフランシス」から。
この絵本は“フランシスシリーズ”として長い間読まれ続けている名作絵本なんだそうですね。

ええ。親子3代で読まれている方もいるみたいですよ。
(表紙の)このアナグマの女の子が主人公フランシスなんですが、どのシリーズも子どもの目線で、子どもの気持ちが本当にリアルに描かれているので、多くの子どもがフランシスに対して「私(ボク)と同じだ!」と感じるみたいで。
そこがやはりこの絵本の魅力であり、ロングセラーの理由なんだと思います。

この「ジャムつきパンとフランシス」は、タイトル通り“ジャムつきパン”が大好きで、“ジャムつきパン”ばっかり食べている女の子のお話なんですよね。
なんだかんだと理由をつけて「アレはイヤ」「コレが食べたい」というフランシス。
ああ、そうそう、うちもこんな感じ。間違いありません。コレ、うちの子です(笑)

でしょう?うちのフランシスは、“ジャムつきパン”じゃなくて“ごはん”ばっかり食べてましたけど(笑)。私なんかは「偏食はダメ!いろんなものを食べなさい!」とついキーっとなっちゃうんですが、フランシスのお母さんは怒ったりしません。
「そんなに好きなら、明日から食事はずっと“ジャムつきパン”にしましょう!」って“ジャムつきパン”生活を始めるんです。

朝ごはんも“ジャムつきパン”。お弁当もおやつも“ジャムつきパン”。もちろん夕ごはんも“ジャムつきパン”。うひゃー、フランシスのお母さんも、なかなかやりますねぇ(笑)

フランシスもすごいけど、お母さんも負けてないのがいいでしょう?
うちも娘がごはんばっかり食べていた時期に読み聞かせをしましたが、それは「偏食はダメ!」という教訓を教えるためではないんです。
“ごはんばっかり食べたい”娘にとって、“ジャムつきパンばっかり食べたい”フランシスの気持ちはとても良くわかるだろうし、私自身もフランシスのお母さんが“ジャムつきパン生活”に踏み切った気持ちがよくわかる。だから「今ならきっと凄くこのお話を楽しめる」と思ったからなんです。

そうですよね。延々続くこの“ジャムつきパン”生活も、別にお母さんが偏食の罰としてやったわけじゃないんですもんね。実際、フランシスも大喜びしていますし。“ジャムつきパン”ばっかり食べているとこうなるぞ!みたいな怖いことは何ひとつ出てこない。子どもにとっては「こうなったらいいのにな~」が実現した話なんですよね。

そうなんです。だから子どもも最初は「フランシスはいいなあ」という感じなんですが、お話が進むにつれ、だんだんフランシスと同じように「あれあれ・・・・」ってなっていくんです。この“フランシスシリーズ”はどれも、どの子でも、どの家庭でも思い当たる話ばかりなので、本当にオススメです。

お話の最初に、親子3代で読まれているという話でしたが、同じ絵本でも、子どもの頃はフランシスとして、大人になったらフランシスのお母さんとしてそれぞれ違う目線で楽しめる絵本といえそうですね。
もう1冊は・・・あ、これもしかして「本をはさんで親子で話そう」の第4回(親子で脱線しながら、ストーリーをふくらまそう)で紹介した「あさえとちいさいいもうと」の続編ですか?

ええ、あの“あさえちゃん”です。「あさえとちいさいいもうと」の頃からもう少し大きくなって、タイトルの「いもうとのにゅういん」をきっかけに、グッとおねえちゃんになるお話がこの絵本です。

あさえとちいさいいもうと」もそうですが、林明子さんの絵は子どもの表情やしぐさを本当によくとらえていますよね。誰もいなくなった部屋の散らかった感じとか、お父さんとふたりだけの食卓の寂しい感じとか、子どもの目線で感じる空気みたいなものまで表現されていて、文章がなくてもあさえちゃんの気持ちが伝わってきます。

林明子さんは小さな子どもを描く際、姪御さん、甥御さんなど身近なお子さんをモデルにされているそうなんです。だから、子どもの表情やしぐさが本当にリアルで、ほっぺのやわららかさとか、体温まで伝わってくる感じがしますよね。
そのリアリティが魅力となって、フランシスシリーズとはまたちょっと違った形で、子どもが主人公の気持ちに深く入り込める絵本になっているのだと思います。

このお話では“ほっぺこちゃん”というお人形が登場しますが、下の子が上の子のものを欲しがってケンカになったり、妹や弟のためにお兄ちゃんやお姉ちゃんが我慢したり、というのは兄弟姉妹の間では本当に日常的なことですもんね。
私もこの絵本を読んで、小さい頃、風邪をひいて寝込んだ弟のために自分の宝モノを譲ってあげたことを思い出しました。

それはステキなエピソードですね。弟さん喜んだでしょう。

ええ、でもしばらくたって弟が元気になったとたん、気がかわってすぐに取り返しましたが(笑)

あはは。それもありがちな子どもの日常ですね。
最後にもうひとつ。林明子さんの絵本には細かい隠し要素があるんですが、ぜひこの本の最後のページに描かれたあさえちゃんの手紙に注目してみてください。

ああっ、コレはすごい!あさえちゃんの文字だ!
その内容は、ぜひ、実際に本で確かめてみてくださいね。

今回セレクトしていただいた本
ジャムつきパンとフランシス いもうとのにゅういん  
「ジャムつきパンとフランシス」
作:ラッセル・ホーバン
絵:リリアン・ホーバン
訳:松岡享子
出版社:好学社(1971年)
価格:1,200円(税別)
「いもうとのにゅういん」
作:筒井頼子
絵:林明子
出版社:福音館書店(1987年)
価格:800円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます