関西弁で絵本を楽しもう<後編>

前回より、ユニークな絵本に目がない中央図書館のA山さんとO田さんをゲストに迎え、「関西弁で絵本を楽しもう!」をテーマにブックトークを展開中。後編となる今回は、前回ご紹介した「ぼちぼちいこか」同様に、関西弁で翻訳した外国絵本についてのお話を中心に、楽しいお話をお届けします。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立中央図書館
児童サービス係 A山さん

司書歴3年、厚いくちびると太い眉毛がチャームポイントのダジャレ好きな若手期待の星。テレビやDVDでは飽き足らず、落語やコントなどのライブにも足を運ぶ、筋金入りのお笑い好き。好きな絵本のジャンルはもちろんコメディ。

さいたま市立中央図書館
児童サービス係 O田さん

司書歴6年。好きなジャンルは翻訳絵本、趣味は近所のノラネコ観察。おはなし会で与えられた役は何でもこなし、その役への入りこみぶりと舞台度胸は、A山さんいわく「アカデミー賞間違いなしの女優」なのだそう。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
ぼちぼちいこか あれこれたまご  
「どこいったん」
作・絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川 義史
出版社:クレヨンハウス(2011年)
価格:1,500円(税別)
「ちがうねん」
作・絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川 義史
出版社:クレヨンハウス(2012年)
価格:1,500円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

絵本に登場するお国言葉(方言)の多くがおはなしの舞台に関係があるのに対し、関西弁は独特のリズムやイントネーション、多彩なオノマトペなどの特長から、標準語ではなくあえて関西弁を使って書かれた絵本がある。
というのが前回からの流れでしたね。
はい。それで標準語でなくあえて関西弁を使う、という観点から、「ぼちぼちいこか」同様に、関西弁で翻訳した外国絵本をご紹介するという話になったかと。
そうそう、そうでした。
関西弁で翻訳した外国絵本ということで、今回ご紹介するのは、「どこいったん」と「ちがうねん」の2冊。どちらも、ジョン・クラッセンさんの作品を絵本作家の長谷川 義史さんが翻訳したシリーズ作品です。
どこいったん」が2011年に、その翌年にシリーズとして「ちがうねん」が発行されています。どちらも原書がアメリカで権威のある賞※を受賞していて、図書館でも予約が殺到してなかなか借りられない時期がありました。
※「どこいったん」・・・・ニューヨークタイムズ2011年絵本ベスト10
「ちがうねん」・・・コルデコット賞大賞受賞作
そういえば、この表紙、本屋さんや雑誌で何度か見たことがあります。
シリーズということですが、「ちがうねん」は「どこいったん」の続編なのですか?
表紙のイラストを見ると主人公が違うように見えますが。
どちらの話も“帽子”がキーアイテムになってはいますが、同じ話の続編ではないです。ただ、間を大事する独特の雰囲気や世界観、あと、どちらもオチがブラックという点は共通しています。文字や絵ではっきりと結末を示さず、読み手の想像に委ねているため余韻があり、自分で読むために借りるという方大人の方も多いです。
全体的に言葉が少ないので、その分自分で考える余地があり、いろいろ想像しながら読み進み、待っているのは思わずドキリとする結末。全体に漂う、心がざわつくようなぼんやりとした不安感と、飄々とした軽快な関西弁の取り合わせが絶妙ですよね。
確かに!原作のほんのりとした暗さと関西弁の明るさという、相反する取り合わせがお互いを引き立てあって、まるで絵本の「塩キャラメル」や~(笑)
クマが自分のなくした帽子を“追う”話が「どこいったん」で、帽子を盗んだサカナが“追われる”話が「ちがうねん」。2冊が“対”になっているのもこの絵本の魅力です。ちなみにMさんはどっちが好きですか?
(本を読みながら)どっちも面白いですが、ドキドキするのは「ちがうねん」かな。やっぱり“追われる”側の方がスリルがありますし、本文がサカナ視点で進んでいるのに対し、絵がお話全体を俯瞰でとらえているので、文字と絵がまったく反対なのがスゴイ!
サカナが「うまくいったわ!」といっているシーンでも、実は本当はうまくなんかいっていないということが絵を見るとわかる。耳から入る情報で想像する絵と、実際に描かれている絵がまったく逆なんですよね。
迫りくる恐怖を読み手はひしひしと感じているのに、サカナは一向に気づく気配もない。読みきかせで読んだら、子どもはハラハラして息を飲むでしょうね。
まさしくドリフの「志村あぶなーい!」と同じ状態になりそう(笑)
私自身、まだ読み聞かせでこの本を読んだことがないので子どもたちの反応についてはなんともいえませんが、途中は別としても、やはりオチがかなりブラックなので最後はシーンとするような気がします。
怖さでいうと「どこいったん」より「ちがうねん」の方が上ですね。落語の「死神」のような、もやっとしたいやーな余韻が残ります。僕もO田さんと同じで、どちらの本ともまだ、おはなし会で読んだことはありませんが、ただ、もし読むとしても、最初に読む絵本でないことは確かですね。
盛り上がるどころか、テンション下がっちゃいますね。(笑)
ところで「どこいったん」も「ちがうねん」も、「帽子を盗む、盗まれる」話ですが、親からするとつい、「人のもの(帽子)を盗るとこうなるぞ」という、しつけや教育に結び付けたくなりますが、そうではないんですよね。
もちろん、ないです。
最後の結末は、帽子を盗んだことが原因でそうなった、ともとれますが、それはあくまで解釈の1つにすぎません。いろんな感じ方があっていいんです。ぜひ、読み終わった後は、お子さんといっしょに想像をめぐらせながらいろいろ話し合ってみてください。大人では思いもよらない答えが見つかるかもしれませんよ。
今回セレクトしていただいた本
ぼちぼちいこか あれこれたまご  
「どこいったん」
作・絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川 義史
出版社:クレヨンハウス(2011年)
価格:1,500円(税別)
「ちがうねん」
作・絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川 義史
出版社:クレヨンハウス(2012年)
価格:1,500円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます