絵本で楽しむ、和のこころ

前回の「日本語っていいな、楽しいな」に続き、今回のブックトークも「日本」がキーワード。「絵本で楽しむ、和のこころ」と題し、大宮図書館のO倉さんとA井さんをゲストに迎え、歌舞伎や浮世絵といった日本の伝統や美を取り入れた絵本についてのブックトークを繰り広げます。絵本を通じて親子でぜひ「和のこころ」をお楽しみください!
今回のブックトークゲスト

さいたま市立大宮図書館
児童・地域係 O倉さん

司書歴6年、児童・地域係の頼れるリーダー。趣味は植物を愛でること。また花を生けるのも好きで、その持前のセンスを発揮し、季節に応じたさりげないディスプレイや看板づくりもO倉さんが手掛けることが多いのだとか。

さいたま市立大宮図書館
児童・地域係 A井さん

司書歴7年。やわらかな物腰と笑顔が印象的な好青年の見た目とは裏腹に、ついいろんなことに口を出してしまう小姑的な一面も。神社・博物館めぐりが趣味で雅楽を愛するなどセンスも渋く、隠れた一面が何かと多い異色の存在。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
かえるの竹取ものがたり おいぬさま 花ふぶき江戸のあだうち
「かえるの竹取ものがたり」
文:俵 万智
絵:斎藤 隆夫
出版社:福音館書店(2014年)
価格:1,800円(税別)
「おいぬさま」
作・絵:荒戸 里也子
出版社:白泉社(2014年)
価格:1,200円(税別)
「花ふぶき江戸のあだうち」
文:舟崎 克彦
絵:橋本 淳子
出版社:文溪堂(1994年)
価格:重版未定

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

今回も引き続きメインテーマは「日本」。前回は「言葉」にポイントを絞ってブックトークを展開しましたが、今回は「和のこころ」と題し、日本に昔からある文化や芸術にふれられる絵本について、大宮図書館のO倉さんとA井さんにお話をうかがっていきたいと思います。
では、まず私がご紹介するのはこちら「かえるの竹取物語」です。日本最古の創作物語である竹取物語を、登場人物をカエルに置き換え、絵巻物を思わせる大和絵風のイラストで美しくユーモラスに描いた、子どもも大人も楽しめる絵本です。
文を書いているのは、歌人の俵万智さん。竹取物語が絵本になる場合「かぐやひめ」などの題名で子どもにわかりやすいよう、原作を大幅に略していることが多いのですが、この絵本は現代語ながらも、他の絵本にはない和歌やエピソードが登場します。
確かに!かぐや姫の話と富士山の名前の由来が関係していたなんて、この本で初めて知りました。私もそうですが、授業でおなじみの「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」という最初は知っていても、最後まで読んだことがない人って結構多い気がします。
古典って敷居が高いイメージがありますからね。この絵本が出る12年前にも同シリーズの古典絵本「かえるの平家物語」が出ていますが、こちらも定番的に人気があります。登場人物がカエルで描かれることで、とっつきやすく感じるのかもしれませんね。ただ、カエルが苦手な人にはダメでしょうけれど(笑)
内容的には小学校高学年から大人向けの作品だと思いますが、大和絵独特の色合いや斜め上から見下ろした構図、同じ画面に同一人物が複数回登場することで時間の流れを表現する見せ方は、絵巻物そのもの。美術館で絵を観る感覚で、眺めるだけでも十分楽しい絵本だと思います。
以前、「定番絵本どう選ぶ?」の回で、子どもにとってわかりやすい絵本は「アングルが固定していて、左から右へ常に進む絵本」だとお聞きしましたが、この本は全くその反対ですよね。でも、だからといって敬遠してしまうにはもったいない!と思わせる魅力が、確かにこの本にはありますね。
そうですね。有名な尾形光琳の屏風画「風神雷神」の元になったのは、「北野天神縁起絵巻」と言われています。この「かえるの竹取物語」は、天を覆う黒い雲やの描き方など「北野天神縁起絵巻」の魅力をとても上手に取り込んであり、日本の伝統的美に触れるきっかけづくりには、ぴったりの絵本だと思います。
「風神雷神」も「北野天神縁起絵巻」も、どちらも日本人なら一度は本物を目にしておきたい国宝ですよね。子どもが大きくなって、美術館や博物館でそうした作品を目にしたとき、この絵本を見ていたことで、親しみや興味を感じてくれたらうれしいですね。

では大和絵に続いて、私は日本絵画の様式から「浮世絵」の魅力を感じられる絵本ということで、「おいぬさま」をご紹介します。子ども向けの定番絵本とは少し異なるため、市の図書館全体でも極めて蔵書数が少ないのですが「浮世絵」の持つユーモアやエッセンスが感じられる1冊です。
将軍様が溺愛する“おいぬさま”に振り回される家臣たちの様子が浮世調のイラストでユーモラスに描かれた絵本で、「あれ~、ごむたいな~!」とか「うむ、たいぎであったのう」といった、時代劇でよく耳にする言葉がたくさん登場します。
あ、この絵本、第2回MOE絵本グランプリ受賞作なんですね。巨大化した“おいぬさま”が巻き起こす大騒動は、生類憐みの令で有名な五代将軍徳川綱吉を風刺しているようで、そう考えるとちょっと大人向けなのかな、と思いましたがどうなんでしょう。
風刺といってもあくまでも、“珍しい物が大好きなお殿様が手に入れた巨大な犬”という設定で、お城の女中や家来を巻き込んでの大騒動のお話ですからね。ドタバタコメディ的な展開ですし、大人好みとはいってもお子さんも十分に楽しめると思いますよ。
ところで、もはや象レベルの巨大な“おいぬさま”ですが、初めて絵を見たとき全く違和感がなかったんです。「あ、こういうの見たことある!」みたいな感じで。浮世絵師の歌川国芳の作品に怪魚や髑髏(どくろ)の妖怪といった巨大な生き物(?)や動物が描かれた作品がありますが、きっとその影響なのかもしれませんね。
浮世絵は世界中の画家たちに影響を与えていますが、現代日本のマンガがアニメーションでも、その影響を感じる作品は多いですよね。浮世絵のタッチと巨大な生き物の組み合わせに、どこかで見た、と感じるのもうなずけます。

歌川国芳といえば無類の猫好きで、擬人化した動物の浮世絵も有名ですよね。最後にご紹介する「花ふぶき江戸のあだうち」は、日本の伝統芸能である歌舞伎を取り入れた作品で、絵本を舞台に見立て、擬人化した動物たちの演じる歌舞伎を観劇する、というちょっと変わった設定の絵本です。
花ふぶき江戸のあだうち」とはその上演演目のことで、父の仇を三年三月追い続け、行き倒れた「すず女(め)」に出会った「犬丸左近」が、親の仇「夜猫又衛門」の仇討を買って出て・・・・という歌舞伎の定番である仇討劇が、江戸の上野を舞台に繰り広げられます。
紫鉢巻の助六風の衣装や隈取(くまどり)、黒衣(くろごこ)による着替えや花道、また独特の演技の型に至るまで歌舞伎の様式美が随所に盛り込まれ、まるでお芝居を観ている気分になれる絵本です。ただ、お話の筋がわかりにくいという難点もあり、好みが分かれる絵本ではありますが。
舞台の引きの場面の裾で黒衣が蝶をヒラヒラさせているとか、細かい!(笑)。でも歌舞伎や能のような日本の伝統芸能って、台詞まわしや様式が独特なせいか難解で敷居が高く、なんだか近寄りがたくて・・・。Eテレの「にほんごであそぼ」もそうですが、まずはわからなくても“触れてみる”ことが大事なのかもしれませんね。
そういっていただけるとご紹介した甲斐があります(笑)。今回ご紹介した3冊の絵本は、日本の伝統美がテーマということで、図書館がいつもおすすめする定番絵本とはちょっと違う視点で選びました。中には読み聞かせには不向きなものもありますが、親子で日本の伝統や美に触れるきっかけになればうれしいですね。
そうですね。今まで「読み聞かせ」という視点で絵本を見てきましたが、古典や芸術のような敷居の高いものを、気軽に楽しめるのも絵本の魅力のひとつ。図録や画集を見る感覚で絵本を眺めながら、親子で「和のこころ」を楽んでみてはいかがでしょうか。
今回セレクトしていただいた本
かえるの竹取ものがたり おいぬさま 花ふぶき江戸のあだうち
「かえるの竹取ものがたり」
文:俵 万智
絵:斎藤 隆夫
出版社:福音館書店(2014年)
価格:1,800円(税別)
「おいぬさま」
作・絵:荒戸 里也子
出版社:白泉社(2014年)
価格:1,200円(税別)
「花ふぶき江戸のあだうち」
文:舟崎 克彦
絵:橋本 淳子
出版社:文溪堂(1994年)
価格:重版未定

※全てさいたま市の図書館で借りることができます