たくましい植物の世界<後編>

前回に続き、「植物」をテーマに北図書館のM山さんとM口さんをゲストに迎え、植物のたくましい生命力についてのブックトーク。今回は、標高4000mのヒマラヤ山脈やカラカラに乾いた不毛の大地、アタカマ砂漠など、過酷な環境に生きる植物の驚くべき生態と一緒に、科学絵本の魅力について語ります。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立北図書館
児童・地域係 M山さん

司書歴13年。好きな絵本は、暑さ、寒さ、においなど五感が刺激される絵本。海や山など自然の中で過ごすのが大好きで、数年前からは念願の畑での野菜づくりにも挑戦。収穫した野菜のおいしい調理法を日々研究中。

さいたま市立北図書館
児童・地域係 M口さん

司書歴22年。ビリヤードが趣味で、好きな絵本のジャンルはどうぶつの絵本。手や指の関節が柔らかく、おはなし会で手あそびを行うときに見せる手の形の美しさには定評があり、思わず見とれる人も多いのだそう。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
やさいの花 雑草のくらし―あき地の五年間 たんぽぽ
「せいたかだいおう」
(かがくのとも 2002年8月号)

作:広松 由希子
写真:大森 雄治
出版社:福音館書店(2002年)
価格:品切れ
「きせきのお花畑」
作・写真:藤原 幸一
出版社:アリス館(1985年)
価格:1,400円(税別)
「ハートのはっぱかたばみ」
作:多田 多恵子
絵:広野 多珂子
出版社:福音館書店(2015年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

今回も「たくましい植物の世界」がテーマ。前回は身近な植物ということで、野菜の花(「やさいの花」)や雑草(「雑草のくらし」「たんぽぽ」)をご紹介ただきました。後編となる今回は、日本から遠く離れた過酷な土地で生き抜く植物の絵本と聞き、またもやワタクシ、ワクワクしております(笑)
はい。今回も絵本を通じて、皆さんを知られざる植物の世界にお連れしたいと思います。ところで当たり前ですが、植物は動物と違い、自らの意志で自由に動きまわることができません。だからどんな環境であったとしても、種として落とされたその場所で生きていくしかない。今回は、そんな植物の「環境適応力」の凄さに注目しました。
まず、最初の一冊はこちら「せいたかだいおう」です。この写真の植物がセイタカダイオウ。ヒマラヤの高山帯に生息する植物です。セイタカダイオウが生息する標高3,600m~5,000mあたりは年間ほぼ雪に覆われ、地面が見えるのは雪が解けるほんのわずかな夏の間だけ。そのため、ほとんどの植物の背が低いのですが、この花はちょっと変わっていて1m以上もの高さまで育つんです。
へえー、こんな植物があるんですね。初めて見ました。なんだか白菜のような葉が重なり合って上に伸びたような、不思議な形ですね。ヒマラヤの荒涼とした大地に、これがニョキニョキ生えている・・・なんかちょっとシュールな光景ですね(笑)
でも雪に覆われたヒマラヤで、ここまで育つには相当な時間が必要ですよね?
この写真の大きさになるまで、5~6年かかるそうです。この白菜の葉のような薄い葉は苞葉(ほうよう)といって、中の花を高山の低温や高山の強い紫外線や風から守る働きをしています。なんと、天気が良いと温度が30℃近くにもなり、中には受粉に必要な虫も生息しています。そのため、「温室植物」と呼ばれているんですよ。
外はヒマラヤなのに、葉の中は常夏のハワイ。この不思議な形は、花を咲かせ種を残すために、不毛な土地にセイタカダイオウが自ら作り出した“楽園”だったんですね。 動くことができなくても、道具がなくても、過酷な環境の中で生き抜くために、自らの体を変化させて都合の良い環境をつくりだす。植物の能力、恐るべしです!

では続いてもうひとつ、過酷な環境の植物についての絵本をご紹介しましょう。こちらの「きせきのお花畑」は、400年間、一粒の雨も降らないカラカラに乾いた不毛の大地、南米チリのアタカマ砂漠に咲く花を収録した写真絵本なんです。
え?ちょっと待ってください。400年間、一粒の雨も降らない砂漠で、花っていうだけでビックリなのに、花畑ってことは、ひとつやふたつじゃないってことですよね?
アタカマ砂漠に雨は降りませんが、「カマンチャカ」という霧が1年に1度だけ通過します。そのたった1度の霧のわずかな水分だけで、地中の植物が目を覚まし、砂漠につくりだす花畑。1年に1度、ほんの短い間だけ見ることができる、まさに奇跡のお花畑です。
この花畑の写真、すごいでしょう?植物は別に誰かを喜ばせるために、花を咲かせるわけじゃない。自分の子孫を残すため、次の種に命を託すために、動物も住めない不毛の大地で、たった1度のわずかな霧の水から必死で花を咲かせるわけです。いわば、この花畑は植物の命の輝きそのもの。だから見ている人を圧倒するんですね。
アタカマ砂漠の植物にとって、カマンチャカは1年にたった1度の奇跡で、このチャンスを逃したら、目を覚ますことはできない。 ちゃんと“時”を知っているんですね、植物たちは。土の中で眠りながら、ひたすらそのチャンスを待っているんです。
荒涼とした砂漠の何もない大地の下で、これだけの花の種が、眠りながらその時を待っていたのかと思うと、胸に迫るものがありますね。1年に1度のチャンスをつかみ、たった1週間で種を残すもの。5年以上の長い時間をかけて子孫を残すのに適した環境を、自らつくりあげるもの。植物って知れば知るほど、奥が深いですね。
雨が一粒も降らない砂漠でも、標高4000mの高山でも、与えられた場所がどんな環境であれ、不平不満も言わずその使命を全うする。「雑草のくらし」の著者、甲斐さんも「植物と人間という違いはあっても、生きものとしては同じ」という通り、同じ地球に生きる命として、植物のたくましさ、偉大さには尊敬の念を抱かずにはいられません。

では最後は、ぐるっと一周して一年中、どこでも見ることのできる植物「かたばみ」をご紹介して締めくくりたいと思います。どこにでも咲いていて、誰もが見たことはあるんだけど、じゃあ名前は?と聞かれると答えられない。そんな地味な植物、それがこのカタバミです。
あ、わかるわかる。これ、見たことあります。路側帯とか、コンクリートの隙間とかに生えてるやつだ!カタバミっていうんですね。顔はわかるのに、名前が思い出せないー、みたいな(笑)。しかも、クローバーとよく間違えてがっかりされるという、擬人化するとちょっと悲しいイメージの植物かも。
いえいえどうして、とってもたくましい植物ですよ。世界中に広く生息していて、繁殖力が強く、駆除するのが大変な手ごわい雑草、なんていわれることも。この絵本は、子どもの低い目線を意識した絵と構成で、身近なカタバミの生態がとても上手にわかりやすく描かれています。
本当に地面スレスレに咲いている花の描き方が上手ですよね。この絵本にも描かれていますが、カタバミって車がビュンビュン走る、高速道路のような空気の悪い場所にも咲いていたりするんです。なんでこんな所に?という場所で見かける植物の中には、たいていカタバミがいますね(笑)。
これならセイタカダイオウと違って、絵本を片手に子どもと一緒にすぐに見に行けるので助かります!それにしても、前回・今回と2回にわたって植物の科学絵本をご紹介いただいたわけですが、科学絵本は親自身にとっても学ぶことが多く、親と子が同じ目線で楽しむことができるのが魅力ですね。
そうですね。ひとつのことをきっかけに、「じゃあ、アレはどうなっているんだろう?」と浮かんだ疑問を子どもと一緒に調べることで、親自身の学ぶ姿勢を見せることができるとても良いチャンスになると思います。
学ぶって面白いですよね。きっかけがなければ一生知らないまま、目にしないままのものがたくさんある。そういう知らない世界や知識と出会うことができるのが、科学絵本の素晴らしいところ。こうした絵本が、小さなお子さんたちの知識の入り口やきっかけになってくれたら、紹介する私たちにとって、こんなうれしいことはないですね。
今回ご紹介した絵本以外にも、図書館には私たちの知らない不思議な世界がのぞける科学絵本がいっぱい。ずっと気になっていたあんなことやこんなこと、上手に図書館を利用してお子さんと一緒に知識の扉を開いてみてくださいね。
今回セレクトしていただいた本
やさいの花 雑草のくらし―あき地の五年間 たんぽぽ
「せいたかだいおう」
(かがくのとも 2002年8月号)

作:広松 由希子
写真:大森 雄治
出版社:福音館書店(2002年)
価格:品切れ
「きせきのお花畑」
作・写真:藤原 幸一
出版社:アリス館(1985年)
価格:1,400円(税別)
「ハートのはっぱかたばみ」
作:多田 多恵子
絵:広野 多珂子
出版社:福音館書店(2015年)
価格:900円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます