常識の枠を飛び出せ!下

前回から引き続き、東浦和図書館のH杉さん、F田さんをゲストにお迎えし「奇想天外な絵本」をテーマにお送りするブックトーク。「常識」の通じない内容に最初は戸惑いつつも、気づけば夢中になってしまうこと間違いなしの、魅力がつまった絵本をご紹介します。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立東浦和図書館
児童・地域係 H杉さん

司書歴8年。人生経験豊富で、いつも楽しいお話で職場の雰囲気を盛り上げてくれる、東浦和図書館のムードメーカー的存在。今回紹介するような、読み出すやいなや笑えてしまう、奇想天外なおはなしと絵にあふれた絵本が大好き。

さいたま市立東浦和図書館
児童・地域係 F田さん

司書歴21年、児童サービス係では7年目を迎える、本選びのスペシャリスト。お昼寝が趣味でほんわかした印象とは裏腹に、やると決めたことは必ずやり遂げる熱い一面を持つ、妥協なき司書魂の塊。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
「だるまだ!」
作・絵:高畠 那生
出版社:好学社(2015年)
価格:1,500円(税別)
「まねきねこだ!!」
作・絵:高畠 那生
出版社:好学社(2017年)
価格:1,500円(税別)
「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ」
作:谷川 俊太郎
絵:おかざき けんじろう
出版社:クレヨンハウス(2004年)
価格:1,200円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

さて今回は、「常識の枠を飛び出せ!」の後編ということで、前回よりもさらにパワーアップした奇想天外な絵本をご紹介いただきます。 では、最初の一冊目はこちら「だるまだ!」。
おお!これはもう、表紙から怪しい香りがギュンギュンしてます!(笑)
前回ご紹介した「バナナじけん」の、高畠那生さんの絵本です。表紙からもわかるように、「バナナじけん」よりもさらにぶっとんだ内容になっています(笑)。
どうしてこの“だるま”たちはリーゼントなんでしょう?
高畠さんご本人によると、リーゼントヘアではなく、“だるま”の一番いいフォルムを追い求めた結果、この形にたどり着いたんだとか。
絵も設定も世界観もすべてがフリーダムで、大人の感覚からしたら、街中どこもかしこもおかしなことだらけ。でも、何の先入観もない子どもは「わあ、こんな世界もあるんだ!」と受け入れて楽しむことができる。子どもの発想力と柔軟性って、つくづくすごいなあと思いますね。

実は、「だるまだ!」には続編がありまして、それがこの「まねきねこだ!!」なんです。
“だるま”ときて、“まねきねこ”。あ、縁起物つながりなんだ。
あれ?“だるま”は海から来てたのに、まねきねこは空から来るんですね。しかもパラシュートというのが、これまたシュール(笑)。
でも、“だるま”と“まねきねこ”が着いた先の舞台となる町は同じなんです。ただ、時系列では“だるま”のあとに“まねきねこ”がやってきたという設定です。看板やお店などちょっと変化している部分もあるので、比較してみると楽しいですよ。
でも、なぜやって来たのかは、最後までまったくわからない。 ああ、そうか!この本、「起承転結」の「承」と「転」だけでできてるんだ。「起」(なぜ)と「結」(どうなった)の部分は、読み手でご自由にってことなんですね。
たとえば、実は“だるま”は地球を調査するマシンで、“まねきねこ”はそれを回収しに来ているとか。どっちが善でどっちが悪だとか、人によって全く異なる解釈になるのが面白いですね。
「“だるま”は目からビームが出る」「“まねきねこ”はしっぽが変形する」なんて、じぶんでストーリーを膨らませるのもなんだか楽しそう。
作者のオリジナリティが炸裂した本なので、どれだけ世界観に入り込めるかが楽しむためのカギですね。「なんじゃこりゃ!」って内容だからこそ、解釈も自由。
バナナじけん」に比べ、「だるまだ!」と「まねきねこだ!!」は、絵が細部まで書き込まれているので、集団相手の読み聞かせより、手元でゆっくり子どもと覗き込んで読みたい絵本といえますね。

タイトルが読めない絵本です!読んでみてください。
え!?こんなタイトル、ありなんですか!ぽ、ぽーぺ?ぴぽ……ぽぴ……。
じっくり練習しないと読めません(笑)。
私も、タイトルを間違えずに読めるようになるだけでも時間がかかりました。スムーズに読むために、たくさん練習したんです。
絵の色合いがカラフルで、読んでいてハッピーな気持ちになるでしょう。心理学的に、黄色は何だか面白いことが起こりそうな予感がする色で、赤は熱狂や情熱といった強いエネルギーを持った色らしいです。
この本、絵も文章も意味があるのかないのかよくわからないのに、なぜか惹かれちゃいます。
色とか語感とかリズムとかの感覚的な面白さがあって、それを計算でなくやってのけるのが谷川俊太郎さんのすごさですよね。
「ぱぱぺ!」と強く言うのか、「ぱぱぺ?」と優しく問いかけるか。言葉そのものに意味がないから、読み方によって印象が変わる絵本ですよね。
なるほど!読み手のその時の気持ち、声のトーンや速さ次第で、悲しいお話にも楽しいお話にもなるってことですね。
読み手だけでなく、聞き手の感情に左右される部分もあるでしょうね。ほら、たとえば同じメロディーを聴いても、思い浮かべるものが人によって違うこともあるでしょう。
すごい!読むたびにストーリーが変わる絵本なんだ!逆に子どもに読んでもらっても、新しい発見があって面白いかもしれませんね。
あと、イライラしているときに読むといいかも。「ぽぺぴー!」なんてかわいらしい半濁音を口に出しているうちに、怒りも収まりそう(笑)。
実は私も、最初は面白さがわからなかったんですよ。絵を描いたおかざきけんじろうファンのうちの職員が、家で読んだらお子さんが気に入って何度も読まされたと聞いて、実際に読んでもらったんです。それが「なんて面白い本なんだ!」とびっくりするくらい楽しくて、「私も読めるようになりたい!」と夢中になっちゃいました。
声に出して読むことで、はじめて独自の面白さが伝わる。今回ご紹介した本のように、絵本の中には、絵やタイトルを見ただけでは魅力がわからない作品がたくさんあります。「いつもとちょっと違う視点で絵本を楽しんでみたい」そんな時には、ぜひお近くの職員に声をかけてくださいね。
今回セレクトしていただいた本
「だるまだ!」
作・絵:高畠 那生
出版社:好学社(2015年)
価格:1,500円(税別)
「まねきねこだ!!」
作・絵:高畠 那生
出版社:好学社(2017年)
価格:1,500円(税別)
「ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ」
作:谷川 俊太郎
絵:おかざき けんじろう
出版社:クレヨンハウス(2004年)
価格:1,200円(税別)

※全てさいたま市の図書館で借りることができます