絵本の住人たちのオリジナル言語を聞いてみよう!

動物や乗り物も、人間の言葉でおしゃべりするのがあたりまえな絵本の世界。でも実は、鳴き声や機械音などの「オリジナル言語」が、そのまま描かれた作品もあるんです。一見よくわからなくても、読めばわかる面白さに、はまってしまうこと間違いなし。今回のブックトークでは、そんな斬新な「オリジナル言語」で描かれた絵本の世界にご招待します。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立武蔵浦和図書館
児童・地域係 O塚さん

司書歴12年。長新太さんや樋勝朋巳さん、山口マオさんの作品が好きで、おはなし会で選ぶ絵本や紙芝居も面白いと評判の、素敵なセンスの持ち主。手芸が趣味なだけあって、本を透明なカバーで覆う細かい作業も、テキパキしていて美しいと評判だとか。

さいたま市立武蔵浦和図書館
児童・地域係 W杉さん

司書歴2年。好きな絵本はほんわかしたタッチのもので、最近は写真絵本も気になっているのだそう。バリバリと仕事をこなす姿、おはなし会でのとても落ち着いた対応。2年目ながら早くもベテラン感漂う、武蔵浦和図書館の頼れる存在。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
 
「なずず このっぺ?」
作:カーソン・エリス
訳:アーサー・ビナード
出版社:フレーベル館(2017年)
価格:1,600円(税別)
「ぐぎがさんとふへほさん」
作:岸田 衿子
絵:にしむら あつこ
出版社:福音館書店(2009年)
価格:900円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

絵本の中の会話は、動物であれ乗り物であれ、人間の言葉で書かれています。だからこそ読めるわけですが、絵本の世界は空想の世界。本当は、きっと独特な言語に違いありません。そこで今回は「絵本の世界のオリジナル言語」をテーマに、前回に続き武蔵浦和図書館のお二人にお話をうかがいたいと思います。
確かに、絵本では理解できるネコ同士の会話も、現実の世界では「ニャーニャー」としか聞こえない。それでいえば、絵本はオリジナルの“ネコ語”を人間語に翻訳している、といえますね。
そう!実は私、もしも“きき耳ずきん”のような翻訳道具なしで、絵本の世界に飛び込んだらどんな風に聞こえるんだろう、と常々考えていまして。本のスペシャリストのお二人なら、そういう気分を少しでも味わえる絵本をご存知なのではないかと。
いやー、M村さん、気持ちはわかりますが、オリジナル言語では話がさっぱりわからないじゃないですか。今回ばかりはカンタンにそういう本が見つかるとは……。
なるほど、オリジナル言語ですか。ふーむ。ではこんな本はどうでしょう。
この「なずず このっぺ?」は、まさしく、絵本の世界のオリジナル言語だけで描かれている絵本です。
おおー!さすが本のスペシャリスト。頼ってみるものですねぇ。
でも、それだと内容がわからなくて、絵本としてあまり楽しめないのでは?
いやいや、そんなことはありません。今年は読書感想文の課題図書にも選ばれているくらいですから、その内容はお墨付きです。
ふむふむ、外国の絵本なんですね。あれ?日本語訳も外国の方?
訳を手がけたアーサー・ビナードさんは、アメリカ出身で、日本で詩人をされているんです。日本語を題材にしたエッセイも書かれていて、方言にもとても詳しいんですよ。それを知ってから読むと、ほら、「なずず このっぺ?」ってちょっと方言みたいでしょう。
なるほど。そう言われてみると、どことなく東北弁に似てますね。原題の「Du iz tak?」を、「なずず このっぺ?」に翻訳するセンス、さすがです。
ただの「ニャーニャー」だとわけがわからないかもしれませんが、方言を思わせる響きのためか、どこにもない国の聞いたこともない言葉なのに、どこかで聞いたような、そんな不思議な気持ちになりますよね。
昆虫語の「なずず このっペ?」は日本語だと「なに これ?」になるんですが、ほかにも、すべての言葉にちゃんと意味があるんです。
「この言葉は日本語だとどういう意味になるんだろう?」って、親子で考えてみるのも楽しそうですね。英語のような他の国の言葉と違って、どこにもない世界の言葉だからこそ、発想の自由な子どものほうが斬新でステキな翻訳ができるかも。
ほんとだ、想像の斜め上を行ってますね!昆虫語の絵本というだけではなくて、虫や植物の変化や、四季のうつろいも楽しめますね。
親子で絵に合うストーリーを考えてみるのもいいかもしれません。正しいかどうかはあまり気にせず、自由な解釈で昆虫語の世界を楽しんでみてくださいね。

次は、この「ぐぎがさんとふへほさん」なんていかがでしょう。「オリジナル言語」の世界に浸れる絵本ですが、セリフ以外は日本語なのでわかりやすく、「オリジナル言語」を楽しむ入門編にぴったりだと思いますよ。
ああ、“ぐぎがさん”の言葉は「がぎぐげご」の濁音で、“ふへほさん”の言葉は「はひふへほ」のやわらかな音になっているんですね。
そうなんです。ゴツゴツカクカクの“ぐぎがさん”と、ふんわりふわふわの“ふへほさん”。全く正反対な2人ですが、ねこも加えた3人(?)で仲良く暮らしているんです。最後のほうに有名な童謡の「海」の歌が出てくるんですが、それぞれ「ぐぎが語」「ふへほ語」の替え歌になっているのがツボで。
音階つきの歌詞が載っているんですね。絵本で初めて見たかも。
めずらしいですよね。読み聞かせで歌い出せば、きっと子どもたちも歌ってくれるはず。いつか読み聞かせしようと思って楽しみにしている絵本なんです。
“ぐぎがさん”も“ふへほさん”も、うまく歌えず、その代わりに、一番常識がある雰囲気のねこが歌いますが、ねこもちゃんと歌えてない(笑)。子どもたちの「違うじゃーん!」って声が聞こえてきそうです。それにしても、本当に“ぐぎがさん”と“ふへほさん”は理想の夫婦ですねぇ。
ええっ、私はこの2人、普通のお友達かと思ってました!
私は今流行りのシェアハウス仲間なのかと(笑)。
えぇー、みんな違うんだ。じゃあ、2人の関係性は、読者のご想像にお任せしますってことなんでしょうか。
夫婦にも、家族にも友達なのか、見る人によって変わってきますね。でも、この2人がどんな関係だったとしても、「見た目も好みもぜんぜん違うのに、なぜか気が合う」そんな関係って、とてもステキだと思います。
相手と異なるところを見つけても、「それでも2人は平気」という姿勢で、干渉せず尊重しあっているところ、私も見習いたいです。
こうしてみると、オリジナル言語の世界って奥が深いでしょう。
まだまだ、オリジナル言語の世界が楽しめる絵本はたくさんあります。ぜひ、親子でいろんなオリジナル言語を聞く絵本の旅に出かけてみてくださいね。
今回セレクトしていただいた本
 
「なずず このっぺ?」
作:カーソン・エリス
訳:アーサー・ビナード
出版社:フレーベル館(2017年)
価格:1,600円(税別)
「ぐぎがさんとふへほさん」
作:岸田 衿子
絵:にしむら あつこ
出版社:福音館書店(2009年)
価格:900円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます