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大宮西部図書館のY田さんをゲストに迎え、3回連続でお届けするブックトーク。2回目となる今回も、冬から春にかけておすすめの絵本をご紹介いただきます。長く厳しい冬も、1月を過ぎると野山の動物や植物たちにとってはもう春を待つ季節。今回はそんなひと足早い「春のおとずれ」をテーマに、ブックトークを繰り広げます。 |
今回のブックトークゲスト | |
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![]() さいたま市立大宮西部図書館 |
司書歴20年。14歳と10歳の姉妹の子育てに日々奮闘中のワーキングマザー。「食べもの」が登場する絵本が大好きで、お子さんとのコミュニケーションに読み聞かせを活かした体験からのアドバイスは、子育て中のママに定評あり。 |
※プロフィール内容は取材当時のものです
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「はなをくんくん」 作:ルース・クラウス 絵:マーク・シーモント 訳:木島 始 出版社:福音館書店(1985年) 価格:1,100円(税別) |
「ぽとんぽとんはなんのおと」 作:神沢 利子 絵:平山 英三 出版社:福音館書店(1985年) 価格:900円(税別) |
「いちごばたけのちいさなおばあさん」 作:わたり むつこ 絵:中谷 千代子 出版社:福音館書店(1983年) 価格:900円(税別) |
※全てさいたま市の図書館で借りることができます
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前回の「寒い冬をあたたかく」が冬の真ん中だとすると、今回の「春のおとずれ」は冬の終わりということになりますね。寒くて厳しい冬の終わり。春を一番に心待ちにしているのは、なんといっても冷たい地面の下や木、穴ぐらで眠る動物たちでしょうね。 |
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「啓蟄(けいちつ)」と言われるように、私たち人間は、春の目覚めで出てきた生き物の姿や、あたたかな日差しや風から春のおとずれを知ります。でも、日差しも風もこない、真っ暗な地面の下や穴の中で冬眠する動物たちは、どうやって春を知るんでしょう? |
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あ、言われてみれば確かに。そもそも「春」自体、目に見えない抽象的なもの。それを感じるということは、視覚以外の感覚ということになりますね。 うーん、例えば「におい」とか? |
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春のにおい。それも1つですね。春のおとずれを描いた絵本の代表ともいえる「はなをくんくん」は、まさにその「におい」にフォーカスしたもの。雪深い森の中で眠る動物たちが、かすかな「春のにおい」で目を覚まし、その正体を追って走り出していく様子を描いた絵本です。 |
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あれ?表紙に黄色が使われているのに、中はモノクロなんですね。 雪に覆われた冬の森で、野ねずみ、くま、かたつむり、と、ページを進むごとに生き物たちが次々に目覚め、野生の勘とにおいを頼りに一斉に駆け出していく。何のにおいなのか、その正体がわからないまま話が進むので、思わずひきこまれますね。 |
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シーンとした冬の雪山の「静」のイメージと、鼻をくんくんさせ目覚める「動」の対比が際立つのは、白と黒のシンプルな絵だからこそ。50年も前の絵本なのに、全然古さを感じないのがすごいでしょう。ちなみに、さっき表紙の色の話が出ましたが、最後まで読むと、その意味もちゃんとわかるしかけになっているんですよ。 |
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(最後までいそいでめくる) ああーっ。なるほど、そういうことか!これ、最後まで読んで「におい」の正体がわかった後、改めて最初から「におい」を想像しながら読むと、また印象が違いますね。 ほかに、真っ暗な土や、穴の中で感じられる感覚っていうと、あとは「音」とか? |
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そう!もう1つご紹介したいのは、春のおとずれを「音」で感じるこちらの絵本「ぽとんぽとんはなんのおと」です。穴の中で冬ごもりする熊のお母さんが、外から聞こえてくる音が気になる子熊たちに、それが何の音なのかを教えるというもの。外の世界を知らない子熊たちと母熊の会話がすごく温かくて、私の大好きな絵本なんです。 |
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暗い冬ごもりの穴の中と、外の景色が見開きごとに交互に展開するのは、会話そのものは母熊が語る想像の世界だからなんですね。木こりが木を切る音。ふくろうの鳴き声。森から聞こえてくる音は、穴ぐらで生まれた子熊たちにとっては初めて聞く音ばかり。夏に初めて屋外キャンプする親子のテントの中の会話も、こんな感じなのかも。 |
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そうですね。動物や虫の声。木を揺らす風の音。遠くから聞こえるお祭りの音色。明かりを消して、真っ暗な中で聞こえてくる音に耳を傾け、いろんなことを想像しながら親子で話すゆっくりとした時間。つい、日々の忙しさに流されてしまいがちな、そういう時間の大切さを感じさせる絵本ですよね。 |
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この熊のお母さんは、「あの音は何?」という子どもたちの疑問に正しく答えていますけど、別に想像であってもいいんですよね。私も子どもが小さい頃は「何かな?何だろうねぇ」と寄り添っていたはずが、小学校に入ったあたりから「お母さんは図鑑じゃないんだから自分で調べなさい」になってました。ちょっと反省します。 |
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いえいえ、自分で調べるのも大切なことです。でもそれ以上に、「何だろう」という子どもの気持ちを受け止め、寄り添ってあげることも大切。この母熊の寄り添う姿勢やゆったりとした時間の流れがすごくステキでしょう。でも、現実のお母さんは「急いで、急いで」の連続で、なかなかこういかないんですよねぇ(笑) |
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ところで、途中で子熊たちが「しーん、としているね」と、「音」ではなく「静けさ」に興味を持つ場面があるじゃないですか。あれ、なんというか、すごく日本人っぽい感覚だなと思ったんです。で、日本の絵本だと知って、ああ、なるほど、と。「しーん」という無音を表すオノマトペは、英語にも中国語にも無いっていいますし。 |
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「音が“無い”」のではなく「静けさが“ある”」。この感覚は日本ならではですよね。 春のおとずれを待ちわびる動物を描いた絵本、「はなをくんくん」と「ぽとんぽとんはなんのおと」。それぞれに描かれた「におい」と「音」の正体が何なのか、ぜひ絵本で確かめてくださいね。 |
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さて最後はこちら、「いちごばたけのちいさなおばあさん」です。 いちご畑に住む小さなおばあさんが、春に向けていちごに色をつけるという、とてもメルヘンチックなお話です。毎年2月頃、スーパーにいちごが並ぶ季節になると読みたくなって、おはなし会でも毎年しつこく読んでます(笑)。 |
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こういう小さい頃に読んだファンタジーは忘れられないですよね。働き者のこびとやいたずら好きの妖精が出てきて、何かを作ったり作業をするお話は特に。「こびとのくつ屋」しかり、「チックとタック」しかり。おはなし会でもウケるでしょう? |
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ウケますね。いちご、こびと、おばあさん、というおとぎ話によくあるモチーフが揃っているので、女の子にウケるのは予想通りでしたが、意外や意外、男の子たちも喜んできいてくれて。絵本にしては少し長めのお話なので、小さい子だと集中できない子もいますが、大きい子はだいたい集中して真剣に聞いてくれます。 |
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とはいえ、「いちごが赤いのはおばあさんが色をぬっているから」という不思議メルヘン系のお話なので、大きいといっても科学知識の入る前に読みたいところですね。 それにしても、同じファンタジーでも冒険ものとかならわかりますが、男の子もこのお話が好き、というのは確かにちょっと意外でした。 |
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トンネルの奥深くから湧水を汲んでくるとか、土の中の緑色の石を掘り出すとか、いちごを染めるのに1000回以上階段を上り下りするとか。いちごに色を着ける工程のディテイールがすごく細かくて、妙にリアリティがあるのが良かったのかも(笑) |
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おとぎ話とわかっていても、設定が細かくリアリティがあると「ひょっとしたら・・・」と思えてきますもんね。これを読んだ子たちはきっと、スーパーでいちごをみるたびにこのおばあさんのことを思いだすだろうなぁ。白っぽい部分を見て「あっ、おばあさん、ここ塗り忘れてる!」とか言い出しそう(笑) |
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途中でいちごがダメになってしまったかも、と思わせる場面があるんですが、おばあさんと一緒に子どもたちも一緒にしょんぼりするんです。こういう昔風の絵柄って今時のお母さんにはあまり好まれないのですが、この絵だからこそ、真面目でけなげなおばあさんの感じが伝わって、かわいそうで心配になっちゃうんでしょうね。 |
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同じおばあちゃんでも「そりあそび」のばばばあちゃんとは大違いですね(笑)。 さて、6年ぶりのY田さんとのブックトークもいよいよ次回が最後。「私の思い出の絵本」と題し、子どもが読み聞かせを卒業した今だから話せる、絵本をめぐる子育ての話をお届けします。どうぞお楽しみに! |
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「はなをくんくん」 作:ルース・クラウス 絵:マーク・シーモント 訳:木島 始 出版社:福音館書店(1985年) 価格:1,100円(税別) |
「ぽとんぽとんはなんのおと」 作:神沢 利子 絵:平山 英三 出版社:福音館書店(1985年) 価格:900円(税別) |
「いちごばたけのちいさなおばあさん」 作:わたり むつこ 絵:中谷 千代子 出版社:福音館書店(1983年) 価格:900円(税別) |
※全てさいたま市の図書館で借りることができます