私の思い出の絵本

大宮西部図書館のY田さんをゲストに迎えてのブックトークも今回が最後。今回は6年ぶりの対談ということもあり、これまでのブックトークの番外編として「私の思い出の絵本」と題し、子どもが読み聞かせを卒業した今だから話せる、絵本にまつわる子育ての思い出や気づきについてのお話を熱く語っていただきました。
今回のブックトークゲスト

さいたま市立大宮西部図書館
児童・地域係 Y田さん

司書歴20年。14歳と10歳の姉妹の子育てに日々奮闘中のワーキングマザー。「食べもの」が登場する絵本が大好きで、お子さんとのコミュニケーションに読み聞かせを活かした体験からのアドバイスは、子育て中のママに定評あり。

※プロフィール内容は取材当時のものです

今回セレクトしていただいた本
 
「パンやのくまさん」
作・絵:フィービー・ウォージントン/セルビ・ウォージントン
訳:間崎 ルリ子
出版社:福音館書店(1987年)
価格:1,000円(税別)
「タテゴトアザラシのおやこ」
作:結城 モイラ
写真:福田 幸広
出版社:ポプラ社(2001年)
価格:1,000円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます

Y田さんと初めて対談したのは、6年前の「子どもの日常を描いた絵本」でしたよね。「ジャムつきパンとフランシス」での子どもの“ばっかり食べ”の話とか、うちの娘とY田さんの上の娘さんが同じ年ということもあり、共感する部分がすごく多かったのを覚えています。
あれから6年ですか!当時8歳と4歳だった娘も、今や14歳と10歳。読み聞かせもすっかり卒業です。ただ、最近は子どもが反抗期を迎え、イラッとさせられることが多くなってからは、読み聞かせの頃のことを思い出し、心を静めています(笑)
わかります!反抗期の母親の辛さ!あのかわいい時期がなかったら、やってられませんよね(笑)。10年前、当時の児童サービス係だったSさんとの対談「本をはさんで親子で話そう」で聞いた「読み聞かせは、実は親自身のためのもの。楽しかった子育ての時間を思い出すことができるから」の言葉が、10年後の今、じわじわ効いてます。
Sさんがそんな名言を!(笑)。でも確かにそうかも。読み聞かせって日常のことだから、読んだ絵本の思い出がそのまま、子育ての日常とリンクするんですよね。絵本を読んでいた頃の子どもの様子だけでなく、自分の気持ちも一緒に甦ってやさしい気持ちになれる。私にとってのそういう絵本が、この「パンやのくまさん」なんです。
あっ、コレ、6年前の対談でもうかがった記憶があります。その時は記事にしなかったんですが、お子さんに毎日読まされて「もはや修行のようだった」って、吉田さんおっしゃってましたよね。
そうなんです。下の娘に毎日読まされ続けること、1年半。ほかの本を読みたくても、必ずこの本を読まないと読ませてもらえない。大きなドラマがあるわけでもない、パン屋のくまさんのつつましやかな1日のお話を、どうしてこうも毎日読みたがるのか、不思議で、不思議で。そのくらい次女は、この本ばっかりでした。
同じ絵本を1年半!私も娘に同じ本を何度もせがまれたことがありますが、読む方には結構キツイですよね。私は1週間で「ママ飽きた、もう無理、ゴメン!」でギブアップしちゃいましたけど、娘さんが飽きるまでつきあって読まれたY田さんはすごいです。
いや私も正直、飽き飽きでした(笑)。でも毎日読んでいくうちに、最初の頃は、「どさっ、どさっ、どさっ」と雪の落ちる場面や、「がらん!がらん!がらん!」と鐘の鳴る場面にしか反応しなかったのが、日が経つにつれ、だんだん興味を持つ場面が変わっていることに気づいたんです。それで「あれ?」と思うようになって。
最初はオノマトペに反応したんですね。ちなみにその1年半って、何歳から何歳くらまでの間だったんですか?
確か、1歳半~3歳くらいだったかな。最初は、パンを見て「パンがおいしそうだねえ」と言って食べるマネをしていたのが、やがてお買いもののシーンにある「1個、2個、3個」といった数字にも興味を示すようになり、ある家の場面では置いてあるお人形を見て「このおうちの子はおねえちゃん(女の子)なんだね」と言い出したり。
ああ、なるほど!絵本に描かれた、最初は壁の模様でしかなかった時計も、形を知って「まるいもの」になり、モノの名前を知って「時計」になり、時計の読み方を知って「3時」だとわかるようになる。私たち母親にとっては同じ話でも、保育園や幼稚園でいろんなことを学びアップデートしている子どもには、見えるものが違うんですね!
ちょうど保育園に入った時期で、世界も広がっていったんでしょう。保育園の影響なのか、次女は生活のリズムをすごく大事にしているところがあって。私は仕事柄、わらべうたをよく歌っていたんですが、この歌はお風呂のうた、とか、この歌は寝る時のうた、とか、彼女の中では全部決まっていて、たまに違うのを歌うと怒られました(笑)
刺激いっぱいの保育園生活で、毎日広がっていく世界。娘さんにとって、お母さんのわらべうたや読み聞かせは、保育園という「冒険」から帰る「行きて帰りし場所」だったんですね。そう考えると、「パンやのくまさん」にこだわった理由が少しわかる気がします。

長女との思い出の絵本に選んだのは、タテゴトアザラシの親子の生態を写真で追った科学絵本「タテゴトアザラシのおやこ」です。タテゴトアザラシのおかあさんは北極の海からカナダの流氷にたどり着き、2月の終わりに子どもを産むんですが、2週間後には赤ちゃんを置いて、ひとりで北極の海に帰ってしまうんです。
え!生後たった2週間で、こんなブリザードが吹く厳しい極寒の環境に、ひとり残されるんですか!お母さんのおっぱいを飲んで、毎日2㎏ずつ増えるといったって、まだこんなにかわいい赤ちゃんなのに。残して去っていかなきゃいけないお母さんも、辛いだろうなぁ。野生動物の子育てって、つくづく過酷なんですねえ。
ここに「あかちゃんはこれからひとりでいきていきます」って書いてあるんですけど、この文を読み始めたとたん、当時小学校1年生だった長女がブルブル体を震わせて怒りだしたんです。「こんなのダメだ!お母さんと離れちゃ、ダメなんだよ!」って、もう絵本を投げつけんばかりに怒り狂って。絵本が大好きな長女が、この本には手も触れず。
きっと、娘さんは「お母さんとの別れ」をリアルに感じたんでしょうね。夜、目を覚ましてもお母さんはいない。お腹がすいても誰も食べ物をもってきてくれない。お母さんのいない「ひとりぼっち」というのがどういうことなのか、リアルに感じたからこその怒り、そんな気がします。
そうですね。下の子の出産で私と離れた時期があったので、その時のことを覚えていたのかもしれません。タテゴトアザラシのあかちゃんのように、ひとりぼっちではなく、おばあちゃんが一緒にいてくれたのですが、それでも彼女にとっては、きっとさみしくて辛い経験だったんでしょうね。
そんな短期間でもお母さんと離れるのは辛いのに、タテゴトアザラシの赤ちゃんはもう二度とお母さんに会えない。そう思うと、怒りと悲しみで胸がいっぱいになっちゃったんですね、きっと。
この話にはまだ続きがあって、それから1週間くらいした頃、長女がこの本をじっと見て「そうか。ひとりで生きていくんだね」ってつぶやいたんです。もう私、それ見て泣いてしまって。ああ、この子は、どんなにさみしくても変えられない自然界の厳しさをちゃんとわかっていて、頑張ってそれを受け入れたのかと思ったら、自然に涙が。
この1週間、どれほど悩んで乗り越えたのかを思うと、親としてはもう感無量ですよね。さきほどの「パンやのくまさん」もそうですが、絵本の読み聞かせってお話を楽しむだけでなく、目に見えない子どもの心の成長を気づかせてくれるものなんですね。 あっ、「パンやのくまさん」といえば、その1年半の最後はどうやって訪れたんですか?
それが、ある日突然あっけなく、「これもういい」って。言われた瞬間、こっちの方が寂しくなって「えっ、いいの?いいの?」って何度も聞いたほど。その後も、こっちが「読もう」と言っても、「うん。もういい」って。切なかったですねぇ、あの絵本を卒業した時は。
ああ、なんとなくわかります。うちの娘がアンパンマンを卒業したときもそんな感じでした(笑) なんというか、「本をはさんで親子で話そう」でも出ましたが、絵本の読み聞かせって、いろんな絵本をたくさん読むことが重要ではないんですね。
そうですね。だから図書館に来たお母さんがお子さんに絵本を選ばせて、「えー、またこの絵本?」みたいなシーンをよく見るんですけど、「いいんです!ぜひ、それを借りてください!」と声を大にして言いたいです(笑)。
さすが、1年半同じ絵本を読み続けたY田さん。説得力が違います。
考えてみれば、ここまで子どもの成長を感じることができたのは、1年半、同じ本を読み続けたからこそ。だから、この本を見ると、その時の表情や声が鮮明に甦って、とてもあたたかい気持ちになれるんです。私にとって「パンやのくまさん」は、もう子どものアルバムみたいなものですね。
子どもが夢中になって一緒に絵本を読んでくれる時間は、過ぎてしまえば本当にあっという間。絵本を通じて、今しかないかけがえのない宝物のような親子の時間をみなさんに楽しんでいただけるよう、これからも頑張っていろんな絵本を紹介していきます。Y田さん、今回は3回にわたり楽しいお話をありがとうございました。
今回セレクトしていただいた本
 
「パンやのくまさん」
作・絵:フィービー・ウォージントン/セルビ・ウォージントン
訳:間崎 ルリ子
出版社:福音館書店(1987年)
価格:1,000円(税別)
「タテゴトアザラシのおやこ」
作:結城 モイラ
写真:福田 幸広
出版社:ポプラ社(2001年)
価格:1,000円(税別)
 

※全てさいたま市の図書館で借りることができます