本をはさんで親子で話そう


Chapter 6「本を読むチカラ」のスイッチは、子どもが自らがいれるもの。
「本を読みなさい」は子どもを本嫌いにさせるNGワード。
最終回となる今回は、小学校の中学年以降の「本とのつきあい方」について考えます。
M村
小学校の中学年を過ぎたあたりから、読み聞かせの機会も減り、これまで親が主体となっていた本とのつきあいも、子ども主体へと移っていくわけですが、子ども任せにするとマンガやゲームに夢中になって本から遠ざかってしまいがち。
子どもに自ら本を読ませるには、どうしたら良いのでしょう?
その前にまず、M村さんが言った「子どもに自ら本を読ませる」という言葉、何か気付きませんか?
「子どもに自ら」といいながら、「読ませる」。矛盾していますよね。
ズバリそこに大きな問題があるんです。
Sさん
M村
うわっ、耳が痛いです~(笑)。
でも小さい頃からさんざん読み聞かせをしてきたのに、自分で読めるようになった途端、ぱったり本から遠ざかる様子を見ると、親としては「何とか読ませなくては!」という気持ちに、どうしてもなってしまうんですよねぇ・・・。
「本を読みなさい!」となってしまう気持ちはわかりますが、親が読ませようとして本を与えたり、読書を強制するのは、むしろ逆に子どもを本から遠ざけてしまいます。
親の目線で本を選ぶとどうしても、教訓を含んだ話、いわゆる“ためになる話”を読ませようとしがちです。でも子どもが読みたいのは“自分が楽しいと思える話”であって、“ためになる話”ではないんです。
Sさん
M村
確かに絵本の読み聞かせでも、教訓どころかオチも脈略もない大人から見ると「どこが面白いの?」というような話の方が、子どもに人気だったりしますよね。
うちの娘の読み聞かせでも、イソップ童話より、シュールなキャラクターが登場する、かがくいひろしさんの『まくらのせんにんシリーズ』の方が明らかにウケてましたもん。
本から学ぶことはたくさんあります。でも、本、特にお話というのは何かを学ぶためではなく、純粋に楽しむために読むものではないでしょうか?
名作といわれる数々のお話を通して、勇気や知恵や思いやりを学ぶことはできますが、それにはまず、本人が純粋にお話を楽しんでいることが大前提だと思うんです。
Sさん
M村
言われてみればそうですよね。
誰に強制されることもなく自分が夢中で読んだお話と、読書感想文を書くために仕方なく読んだお話では、頭に残るものが全然違ったような気がします。もちろん読書感想文のための本だから、それなりに優れた児童図書だったはずなのに・・・・。
どんなに優れた本でも、本人が読みたい気持ちで読まなければ、本当の意味での心の栄養にはならないんです。
本を楽しむことを知っていれば、多少本から離れていても大丈夫。「読みたい」というスイッチが入れば、自然と自ら本を読むようになりますよ。
Sさん
M村
そして、そのスイッチは子ども自身が押すものであって、親が押してどうなるものではない、ということですよね。
これまで0歳の読み聞かせからずっと、親のリードによって「本を楽しむ力」は育つ、ということでお話してきましたが、「本を読むこと=楽しいこと」という基盤がしっかりでき、子ども自ら本を楽しむ力を身につけた後は、親は見守るだけでいいんですね。
ええ。やがて本から離れた子どもも、いろんなものに興味を持ち、世界が広がるに従って、新しい知識やお話を求めてきます。
その時にはぜひ、お子さんの読みたい気持ちやその時のレベルに合った本を紹介してあげてください。
Sさん
M村
せっかく「こんなことが知りたい」「こんなお話が好き」という気持ちが芽生えたのに、どんな本を読めばいいかわからないばかりに、(本を読む)チャンスを逃してしまってはもったいないですもんね。
とはいっても、自分が面白いと感じた本をただ紹介するのとはワケが違いますよね。数ある本の中から、どうやって子どもに合った本を選べばいいのでしょう?
ネットの書評を参考にするなど、方法はいろいろあると思いますが、私たちに直接ご相談いただくのもひとつの手です。
司書は“本のコンシェルジュ”とも言われ、人と本との出会いをお手伝いするのが仕事。さいたま市の図書館が毎年1回、4月23日の「子ども読書の日」に、新刊児童書案内『本は王さま』を発行しているのもそのためです。
ご来館の際、お子さんの好みや年齢、興味のあることなどをお話いただければ、一緒にお子さんに合った本をお探ししますよ。
Sさん
M村
えーっ、そんな曖昧な内容で相談していいんですか!(笑)
でもそれはすごく助かるかも。図書館の方ならどんな本が子どもに人気なのか、よくご存じですもんね。それに親に勧められるより、本の専門家に「この本なんてどう?」と紹介された方が、ありがたみを感じて読む気になるかも(笑)
小学校中高学年頃の子って、親以外の大人と対等に話すのがうれしい、みたいなところはありますからね。お子さんだけでのご来館ご相談、大歓迎ですよ。
「この前読んだこの本すごく面白かった。同じようなお話の本ないですか?」といった感じで、ちょこちょこ相談してくるお子さんも結構います。
Sさん
M村
親子揃って図書館であれこれ相談しながら、お気に入りの一冊を探す。
まさに「本をはさんで親子で話そう」のタイトル通りじゃないですか!(笑)
うまくまとめましたねぇ(笑)。
でも図書館内では、くれぐれもお静かにお願しますね。(笑)
Sさん
M村
はい。では、図書館では「本をはさんで親子で“静かに”話そう」ということで(笑)
長期にわたるインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
第6回インタビューを終えて
-
絆アベニュー
編集部員 M村 「本を読むチカラ」の育て方について全6回にわたりお届けしたインタビュー、いかがでしたでしょうか?この企画は、「本を読む子」「本の好きな子」に育てるにはどうしたらいい?そんなシンプルな疑問から始まったものでした。
保育園等での読み聞かせをはじめ、多くの子どもと本を通した関りの深い図書館の児童サービス係の方をアドバイザーに迎え、いろいろとお話をうかがっていくうちに、その原点は「親子で本を楽しむこと」だと気付きました。
良いといわれる本をやみくもにたくさん与えることよりも、大事なのは、数は少なくても本をはさんで親子で楽しく過ごすこと。
「読み聞かせって実は子どものためではなく、親自身のためのものだと思うんです。子どもが大きくなった今も、読んであげた本をみるたび、楽しかった子育ての時間を思い出すことができるから」というSさんの言葉が心に残るインタビューでした。
今回のお話に登場した絵本
-
まくらのせんにん そこのあなたの巻
作・絵:かがくい ひろし
出版社:佼成出版社(2010年)
価格:1,300円(税込) -
本は王さま
出版:さいたま市立図書館(年1回発行)
価格:無料
※さいたま市内の図書館で入手できます。